ウィーン - 今なお生き続ける皇帝文化と美食の街

オーストリア----- 首都ウィーンはドイツ語圏の中では美食の街と知られ、特にザッハートルテに代表する様なスイーツのレベルの高さは世界屈指とも言える。そんなウィーンをさらに「美味しく」楽しみたいのなら9月~11月の秋をお勧めする。同じドイツ語圏であるにもかかわらず、ドイツ文化とは一線を画すオーストリア文化の根底には600年以上に渡るハプスブルク家による統治の歴史が背景にあることを忘るることは出来まい。今のウィーンがこれだけの観光資源を有し、更に美食にも恵まれているのはハプスブルク家の栄華と繁栄の賜物と言っても過言ではない。

以前、住んでいたウィーンの街を週末を利用して再訪問。限られた時間で馴染み深い場所を巡った2日間だった。

ルート: ウィーン

 

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Wien Schwechat空港から一路リンク内の旧市街へ。

以前、短期間ながら住んでいた街の雨上がりの香りを懐かしみながら、好きなカフェの一つCafe Centralへと足を向ける。

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1876年創業の同店の魅力は美味なスイーツもさることながら、何と言っても荘厳な内装と言えるだろう。高い天井に細い柱がいくつも立ち並ぶその様はどこか神殿を彷彿とさせる。

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伝統的な制服に身を包んだ給仕(Ober)たちがプロフェッショナルな対応をしてくれるのも魅力のひとつ。

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このカフェの常連であった「カフェ文士」Peter Altenbergがいつもカフェの入口で出迎えてくれる。世紀末ウィーンを代表する作家の一人である彼はウィーン市内のホテルを定宿にとし、常にこのCafe Centralに入り浸ってはArthur Schnitzlerをはじめとする多くの作家や演劇家などとの親睦を深めていった。彼はこのカフェを気付とし、ここで作品を書き上げていったのだった。

ウィーンのカフェは ー書きだすと長くなってしまうのだがー 政治に対する興味が一般的に薄れていたビーダーマイヤー時代には、若者や知識人、文学者、芸術家などが挙って集う場所となっていた。その後のフランス2月革命の流れをくむ1848年の3月革命ではこうしたカフェでの庶民による交流が大きな原動力となったとされている。俗にいう「諸国民の春」の到来にもウィーンのカフェは一役買っているのだ。

Cafe Centralはこの革命当時まだ創業していなかったが、その当時庶民憩いの場となっていたのがCafe Griensteidlだ。この話も長くなってしまうので、機会があれば次の折にでも触れたいと思う。

Cafe Centralに関して言えば、世紀末ウィーンの史上稀にみる文化の爛熟期に創業し、その文化的繁栄の中で多くの文化人、知識人を育んだ、まさに世紀末ウィーンの舞台、歯車の一つとも言える「文化カフェ」なのである。

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ショーケースに並ぶケーキの数々が訪れる人々を誘惑する。

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カフェでの誘惑を振り払い、Schloß Belvedereへ。ここの2階にある美術館は個人的に毎回ウィーンを訪れる度に足を運んでいる外せない観光スポット。
雨上がりの雲の隙間から青空が顔を出す。

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Grabenから王宮を望む。夕刻とあり観光客の他、家路を急ぐ人々が目にとまる。
奥に見える王宮手前、右手にはSachertorteで有名なCafe Demelがありその甘美たる誘惑が世界中の人々を魅了してやまない。

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Schottentorより昔通ったWien大学に沈む夕陽とVotivkircheを望む。

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日も暮れたあとのお楽しみは夕食。ホイリゲでワインの醸造過程にできるSturm(独語で嵐の意)という炭酸の効いた"若いワイン"を頂く。このSturmドイツ国内ではFederweißerと良い9~10月頃にかけてのみ味わうことのできる貴重な美酒。オーストリア、ドイツのものは白が多いが、イタリア産のものでは赤やロゼもある。もしこの時期にこの地方を訪れることがあれば是非とも味わっていただきたい季節の一品。

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そしてウィーンといえばSchnitzel Wiener Art、ウィーン風カツレツだ。味自体はシンプルだが時々無性に食べたくなる本物のWiener Schnitzel。ドイツでは豚肉を使用したものが多いがウィーンオリジナルのものは仔牛を使う。特にここ Stadheuriger und Restaurant: Zwölf-Apostelkeller は雰囲気だけでなく料理の味も文句ない。Figlmüllerなどで長い時間待ちながら観光客向けの料理を楽しむよりも、Zwölf-Apostelkellerで優雅な時間と美味しい料理を楽しむほうがオススメだ。

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食事のあとは再びカフェでコーヒーを。ウィーンは冒頭でも紹介したとおりカフェ文化が息づく街とあり深夜まで開いている老舗カフェも多い。
これはEinspännerというコーヒーで本来は一頭立ての馬車を意味する。濃厚なコーヒーにSchlagobers(生クリーム)をかぶせた一品。ウィーンではスプーンや水の配置にもカフェ独特の決まりがある。また通常、欧州ではコーヒーに水が無料でついてくるということは珍しい。これは19世紀に時の皇帝ヨーゼフ1世が皇帝専用だった泉を市民に開放し大規模な水道工事を行ったことに依るところが大きい。水道が完成した1873年以来、我々はヨーゼフ1世による恩恵を受け続けているといえるのである。

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オーストリア、ウィーン。
そこには現代の目まぐるしく変化する社会の中でも、独自の帝国文化の面影を今なお色濃く残す人々の生活とかつて帝国の都として栄えたウィーンの気質を感じることができる。まさに世界の人々が想像する典型的なヨーロッパ像がそこには存在するのだ。